こんにちは。今回は今回は2025東北大理系後期数学の大問6を解説します。よろしくお願いします。
問題
\(n\) を \(3\) 以上の整数とする。このとき、以下の問に答えよ。
(1) \(r\) を \(2\) 以上かつ \(n\) 以下の整数とするとき、
$$\frac{{}_nC_r}{n^r}<\frac{1}{r!}$$
を示せ。
(2) 次の不等式が成り立つことを示せ。
$$\left(1+\frac{1}{n}\right)^n<1+\frac{1}{1!}+\frac{1}{2!}+…+\frac{1}{n!}$$
(3) 次の不等式が成り立つことを示せ。
$$\left(1+\frac{1}{n}\right)^n<\frac{1}{4}\left(11-\frac{1}{3^{n-2}}\right)$$
答案例
(1)
$$\frac{{}nC_r}{n^r}=\frac{1}{n^r}\frac{n!}{r!(n-r)!}$$
$$=\frac{1}{r!}\frac{n!}{n^r(n-r)!}$$
$$=\frac{1}{r!}\times \frac{1\times 2\times … \times (n-r)}{1\times 2\times … \times (n-r)}\times \frac{n-r+1}{n}\times \frac{n-r+2}{n}\times…\times \frac{n}{n}$$
$$<\frac{1}{r!}\times \frac{1\times 2\times … \times (n-r)}{1\times 2\times … \times (n-r)}\times \frac{n}{n}\times \frac{n}{n}\times…\times \frac{n}{n}=\frac{1}{r!}$$
が成立するので、
$$\frac{{}nC_r}{n^r}<\frac{1}{r!}$$
である。(終)
(2)
二項定理より、
$$\left(1+\frac{1}{n}\right)^n=\sum_{r=0}^n \left(\frac{1}{n}\right)^r {}_nC_r=1+1+\sum_{r=2}^n \left(\frac{1}{n}\right)^r {}_nC_r \tag{1}$$
と変形できる。ここで、(1)の結果から、
$$\sum_{r=2}^n{}_nC_r<\sum_{r=2}^n \frac{n^r}{r!} \tag{2}$$
が成立するので、式(1)(2)より、
$$\left(1+\frac{1}{n}\right)^n=1+1+\sum_{r=2}^n \left(\frac{1}{n}\right)^r \frac{n^r}{r!} <1+1+\sum_{r=2}^n \frac{1}{r!}$$
$$∴\left(1+\frac{1}{n}\right)^n<1+\frac{1}{1!}+\frac{1}{2!}+…+\frac{1}{n!}\tag{3}$$
を得る。(終)
(3)
<解法1 : 等比数列の和で評価する>
3以上の整数 \(k\) に対し、
$$k!=1\times 2\times 3\times …\times k\ge 1\times 2\times 3\times 3\times …\times 3 =2\times 3^{k-2}$$
$$\Rightarrow \frac{1}{k!}\le \frac{1}{2\times 3^{k-2}}\tag{4}$$
が成立するため、 \(3\le k\le n\) で式(4)両辺の和をとれば、
$$\sum_{k=3}^n \frac{1}{k!} \le \sum_{k=3}^n \frac{1}{2\times 3^{k-2}}$$
$$\Rightarrow 1+1+\frac{1}{2!}+…+\frac{1}{n!} \le 1+1+\frac{1}{2}+\frac{1}{2}\sum_{k=3}^n \frac{1}{3^{k-2}}=\frac{5}{2}+\frac{1}{2}\frac{(\frac{1}{3})^1-(\frac{1}{3})^{n-1}}{1-\frac{1}{3}}$$
$$\Rightarrow 1+1+\frac{1}{2!}+…+\frac{1}{n!} \le \frac{11}{4}-\frac{1}{4}\frac{1}{3^{n-2}}=\frac{1}{4}\left(11-\frac{1}{3^{n-2}}\right) \tag{5}$$
式(3)(5)より、3以上の整数nに対し、
$$\left(1+\frac{1}{n}\right)^n<\frac{1}{4}\left(11-\frac{1}{3^{n-2}}\right)$$
が成立する。(終)
<解法2 : \(e^x\) のマクローリン展開を利用する>
\(n=0,1,2,…\) に対し、関数 \(f_n(x)\) を
$$f_n(x)=\sum_{r=0}^n \frac{x^r}{r!} \space (x \ge 0)$$
で定義する。このとき、
$$f’_{n+1}(x)=\frac{d}{dx}\left(1+x+\frac{x^2}{2!}+…+\frac{x^n}{n!}+\frac{x^{n+1}}{(n+1)!}\right)=1+x+…+\frac{x^{n-1}}{(n-1)!}+\frac{x^n}{n!}$$
$$\Rightarrow f’_{n+1}(x)=f_n(x)$$
が成立する。いま、
$$g_n(x)=e^x-f_n(x) \space (x\ge 0)$$
と定義すると、\(g_0(x)=e^x-1\) は増加関数なので \(g_0(x)\ge g_0(0)=1-1=0\) が成立する。また、ある \(n\ge 0\) に対し \(g_n(x)\ge 0\) を仮定すると、\(g’_{n+1}(x)=g_n(x)\ge 0\) より \(g_{n+1}(x)\) は増加関数なので、
$$g_{n+1}(x)\ge g_{n+1}(0)=0$$
が成立する。よって、数学的帰納法より、
$$g_n(x)=e^x-\left(1+x+\frac{x^2}{2!}+…+\frac{x^n}{n!}\right) \ge 0 \space (x\ge 0, n=0,1,2…)$$
$$∴\space 1+x+\frac{x^2}{2!}+…+\frac{x^n}{n!} \le e^x \space (x\ge 0,n=0,1,2,…) \tag{6}$$
が成立する。式(6)で \(x=1\) を代入すると、
$$1+1+\frac{1}{2!}+…+\frac{1}{n!}\le e \space (n=0,1,2,…) \tag{7}$$
を得る。
一方、数列{\(a_n\)}を
$$a_n=\frac{1}{4}\left(11-\frac{1}{3^{n-2}}\right)$$
で定めると、{\(a_n\)}は明らかに単調増加数列であり、
$$a_4=\frac{1}{4}\left(11-\frac{1}{9}\right)=2.722…>e=2,71828… \tag{8}$$
であるため、式(3)(7)(8)より、
$$\left(1+\frac{1}{n}\right)^n<\frac{1}{4}\left(11-\frac{1}{3^{n-2}}\right) \space (n=4,5,…) \tag{9}$$
が成立する。また、 \(n=3\) のとき、
$$\frac{1}{4}\left(11-\frac{1}{3^{n-2}}\right)-\left(1+\frac{1}{n}\right)^n=\frac{1}{4}\left(11-\frac{1}{3}\right)-\left(1+\frac{1}{3}\right)^3=\frac{8}{3}-\frac{64}{27}=\frac{8}{27}$$
$$\Rightarrow \frac{1}{4}\left(11-\frac{1}{3^{n-2}}\right)<\left(1+\frac{1}{n}\right)^n \space (n=3) \tag{10}$$
が成立する。よって、式(9)(10)より、
$$\Rightarrow \frac{1}{4}\left(11-\frac{1}{3^{n-2}}\right)<\left(1+\frac{1}{n}\right)^n \space (n=3,4,…) $$
が成立する。(終)
解説
整数 \(n\) に関する不等式を証明する問題です。全体的な難易度はやや易~標準くらいですが、誘導を上手に活用できないと泥沼に嵌るタイプの嫌な問題です。特に(3)は \(n\ge 3\) に設定されている意図を汲み取れないと敗戦濃厚です。なお、(3)は大学で習う指数関数のマクローリン展開を知っていれば誘導を無視して解くことができます。
(1)
\(\frac{{}_nC_r}{n^r}<\frac{1}{r!}\) を示せというお題です。この式は
$$\frac{{}_nC_r}{n^r}<\frac{1}{r!}\Leftrightarrow \frac{1}{r!} \frac{n!}{n^r(n-r)!}<1$$
と変形できます。右側の式の左辺について、
$$\frac{n!}{n^r(n-r)!}=\frac{1\times 2\times …\times n}{n^r \times 1\times 2\times …\times (n-r)}$$
$$=\frac{1}{1}\times \frac{2}{2}\times …\frac{n-r}{n-r}\times \frac{n-r+1}{n}\times \frac{n-r+2}{n}\times…\times\frac{n-1}{n}\times \frac{n}{n}$$
のようにn個の分数の積で表現でき、 \(\frac{n-r+1}{n}\times \frac{n-r+2}{n}\times…\times\frac{n-1}{n}\) の部分はすべて(分子)<(分母)となっているため1より小さく、残りはすべて1に等しいため、全体として1より小さいことがわかります。従って、
$$\frac{1}{1}\times \frac{2}{2}\times …\frac{n-r}{n-r}\times \frac{n-r+1}{n}\times \frac{n-r+2}{n}\times…\times\frac{n-1}{n}\times \frac{n}{n}<1$$
が成立するため、両辺に \(\frac{1}{r!}\) を掛ければ示すべき不等式が得られます。
(2)
(2)も証明問題です。示すべき不等式は、
$$\left(1+\frac{1}{n}\right)^n<1+\frac{1}{1!}+\frac{1}{2!}+…+\frac{1}{n!}$$
です。(1)の結果を踏まえ、上式左辺を
$$\left(1+\frac{1}{n}\right)^n=\sum_{r=0}^n \left(\frac{1}{n}\right)^r {}_nC_r=1+1+\sum_{r=2}^n \left(\frac{1}{n}\right)^r {}_nC_r$$
と二項展開できれば勝ち確定ですが、思い浮かばなければ泥沼確定です。
上式右端のΣにある \({}_nC_r\) は(1)の結果を利用して上から評価できるので、
$$\left(1+\frac{1}{n}\right)^n=1+1+\sum_{r=2}^n \left(\frac{1}{n}\right)^r \frac{n^r}{r!} <1+1+\sum_{r=2}^n \frac{1}{r!}$$
と変形すれば示すべき不等式が得られます。
(3)
(3)も証明問題です。示すべき不等式は
$$\left(1+\frac{1}{n}\right)^n<\frac{1}{4}\left(11-\frac{1}{3^{n-2}}\right)$$
です。上式左辺は(2)で \((左辺)<1+1+\frac{1}{2!}+…+\frac{1}{n!}\) と評価できているので、
$$1+1+\frac{1}{2!}+…+\frac{1}{n!}<\frac{1}{4}\left(11-\frac{1}{3^{n-2}}\right)$$
を示せればOKって感じです。
この先の進め方ですが、2通りの解法が考えられるので順に紹介します。
<解法1>
問題文冒頭の \(n\ge 3\) という条件に着目してみます。というのも、(1)(2)までに \(n\ge 3\) が絡んだ形跡がないことから、(3)で何かしら効いてくるのでは?と邪推できるからです。本問ではこの種の忖度力が試されます。
ということで、 \(1+1+\frac{1}{2!}+\frac{1}{3!}+…+\frac{1}{n!}\) の第4項以降の部分について考えてみます。この部分は \(\frac{1}{k!} \space (k=3,4,…)\) の形で書かれており、分母の \(k!=1\times 2\times …\times k\) は3~kまでのk-2個分をすべて3で置き換えれば、
$$k!=1\times 2\times 3\times …\times k\ge1\times 2\times 3\times …\times 3=1\times 2\times 3^{k-2}$$
と評価できるので、これの逆数を考えれば、
$$\frac{1}{k!}\le\frac{1}{2\times 3^{k-2}} \space (k=3,4,…)$$
という具合に上から評価することができます。上式両辺を \(3 \le k \le n\) で足し合わせれば、
$$\frac{1}{3!}+\frac{1}{4}+…+\frac{1}{n!}\le \frac{1}{2\times 3^1}+\frac{1}{2\times 3^2}+…+\frac{1}{2\times 3^{k-2}}$$
$$∴1+1+\frac{1}{2!}+\frac{1}{3!}+\frac{1}{4}+…+\frac{1}{n!}\le \frac{5}{2}+\frac{1}{2}\left(\frac{1}{3^1}+\frac{1}{3^2}+…+\frac{1}{3^{n-2}}\right)$$
という具合に上から評価できます。上式右辺の等比級数は初項 \(\frac{1}{3}\) 末項 \(\frac{1}{3^{n-2}}\) 公比 \(\frac{1}{3}\) なので、和は
$$\frac{5}{2}+\frac{1}{2}\left(\frac{1}{3^1}+\frac{1}{3^2}+…+\frac{1}{3^{n-2}}\right)=\frac{5}{2}+\frac{1}{2}\frac{\frac{1}{3}-\frac{1}{3^{n-1}}}{1-\frac{1}{3}}$$
$$=\frac{5}{2}+\frac{1}{4}-\frac{1}{4}\frac{1}{3^{n-2}}=\frac{1}{4}\left(11-\frac{1}{3^{n-2}}\right)$$
となり、なんと与式右辺の形がそのまんま登場します。あとは(2)を利用して上から評価すれば本問は終了です。
この種の誘導は「解かされてる」感が強くてなんだか気持ち悪いです。
<解法2>
大学数学を齧ってる人は(2)の \(1+1+\frac{1}{2!}+…+\frac{1}{n!}\) を見て \(e^x\) の級数展開を連想したかもしれません。
実は、指数関数 \(e^x\) は \(x^k\) の無限級数で表すことができます。具体的な表式は以下の通りです。
$$e^x=\frac{x^0}{0!}+\frac{x^1}{1!}+\frac{x^2}{2!}+…+\frac{x^k}{k!}+…$$
上式に \(x=1\) を代入すると、
$$e^1=\frac{1}{0!}+\frac{1}{1!}+\frac{1}{2!}+…+\frac{1}{n!}+…$$
となります。この式から、無限級数 \(\sum_{k=0}^\infty \frac{1}{k!}\) の収束値が \(e=2.718281828…\) であることがいえるため、部分和 \(\sum_{k=0}^n \frac{1}{n!}\) は \(e\) 未満の値しか取れないことがわかります。
このことを念頭に数列 \(a_n=\frac{1}{4}\left(11-\frac{1}{3^{n-2}}\right)\) の挙動を見てみると、 \(a_n\) は明らかに増加数列であり、小さい順に \(a_3=\frac{8}{3}=2.666…\)、 \(a_4=2.7222…>e\) であることから、 \(n\ge 4\) で 恒に\(e\) より大きい値をとることがわかります。
従って、本問は \(n\ge 4\) に対しては \(1+1+\frac{1}{2!}+…+\frac{1}{n!}<e<a_n\) が示せればよく、n=3は個別に検討すればよさそうだな、って感じで方針が立てられます。
ということで、まずは \(e^x>1+x+\frac{x^2}{2!}+…+\frac{x^n}{n!}\) を示します。 \(x\) の定義域は \(x\ge 0\) としておきます。
証明にあたり、 \(f_n(x)=1+x+\frac{x^2}{2!}+…+\frac{x^n}{n!}\) という関数を用意します。微分すると、
$$f’_{n+1}(x)=f_n(x) \space (n=0,1,2,…)$$
となることが容易に確認できます。微積の問題では頻出の計算です。
このことを利用し、関数 \(g_n(x)=e^x-f_n(x)\) が
$$g_n(x)\ge 0 \space (x\ge0 , n=0,1,2,…)$$
を満たすことを数学的帰納法で示します。 まず \(n=0\) について、 \(g_0(x)=e^x-1\) は増加関数なので \(g_0(x)\ge g_0(0)=0\) が成立します。次に、ある \(n\ge 0\) で \(g_n(x)\ge 0 (x\ge 0)\) であると仮定すると、 \(g’_{n+1}(x)=g_n(x) \ge 0\) より \(g’_{n+1}(x)\) は増加関数であるため、つねに \(g_{n+1}(x)\ge g_{n+1}(0)=0\) が満たされることが示されます。
以上より、 \(n=0,1,2,…\) で \(g_n(x)\ge 0\) が示せたので、これを変形すれば
$$g_n(x)=e^x-\left(1+x+\frac{x^2}{2!}+…+\frac{x^n}{n!}\right)\ge 0$$
$$\Leftrightarrow 1+x+\frac{x^2}{2!}+…+\frac{x^n}{n!}\le e^x \space (x\ge 0,n=0,1,2,…)$$
が得られます。若干骨の折れる計算ですが、数IIIを使う人は練習しておくとよいかと思います。得られた式に \(x=1\) を代入すれば、
$$1+1+\frac{1}{2!}+…+\frac{1}{n!}<e \space (n=0,1,2,…)$$
が得られます。この後の手順は前述の通りです。示すべき不等式の右辺は単調増加数列であり、 \(n\ge 4\) では
$$\frac{1}{4}\left(11-\frac{1}{3^{n-2}}\right)\ge \frac{1}{4}\left(11-\frac{1}{9}\right)=\frac{49}{18}=2.72222…>e$$
であるため、 \(n\ge 4\) に対し
$$\left(1+\frac{1}{n}\right)^n<1+1+\frac{1}{2!}+…+\frac{1}{n!}<e\le \frac{1}{4}\left(11-\frac{1}{3^{n-2}}\right)$$
が成立します。n=3は、
$$\frac{1}{4}\left(11-\frac{1}{3^{3-2}}\right)-\left(1+\frac{1}{3}\right)^3>0$$
を手計算で示せばOKです。以上より、
$$\left(1+\frac{1}{n}\right)^n<\frac{1}{4}\left(11-\frac{1}{3^{n-2}}\right) \space (n=3,4,…)$$
が示されました。
参考までに、上で登場した \(e^x=\frac{x^0}{0!}+\frac{x^1}{1!}+\frac{x^2}{2!}+…+\frac{x^k}{k!}+…\) の形式の級数表示を「マクローリン展開」といいます。理工系に進まれる方は1年後期~2年前期あたりで叩き込まれる重要項目で、以降は親の顔より拝むハメになります。高校範囲外の内容ですが、難関大を志望する方は教養として知っておいて損はないと思います。
以上です。お疲れ様でした。
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