【大学入試数学】2023年 東京大学 理系数学 大問1 【積分・極限】

こんにちは。今回は2023年東大理系数学の大問1についてみていきます。

問題

(1) 正の整数 \(k\) に対し、

$$A_k=\int_{\sqrt{k\pi}}^{\sqrt{(k+1)\pi}}|\sin{x^2}|dx$$

とおく。次の不等式が成り立つことを示せ。

$$\frac{1}{\sqrt{(k+1)\pi}}\le A_k \le \frac{1}{\sqrt{k\pi}}$$

(2) 正の整数 \(n\) に対し、

$$B_n=\frac{1}{\sqrt{n}}\int_{\sqrt{n\pi}}^{\sqrt{2n\pi}}|\sin{x^2}|dx$$

とおく。 \(\lim_\limits{n \to \infty}B_n\) を求めよ。

考え方

積分・極限の総合問題です。シンプルな問題ですが、定積分評価、絶対値絡みの積分計算、区分求積法など重要項目がギュッと詰まった良問です。

(1) 定積分で与えられた数列 \(A_k\) に関する不等式を証明することが(1)のゴールです。

\(A_k\) は直接計算できないタイプの定積分なので、\(A_k\) を \(k\) の式で書き下すのはムリっぽいです。このような場合は、「定積分の評価」という手法を用いるのが定石となります。

評価方法について簡単に復習してみます。区間[\(a,b\)] でつねに \(f(x)\le g(x) \le h(x)\) が成立する場合、辺々を区間[\(a,b\)]で定積分した \(\int_{a}^{b}f(x)dx\le \int_{a}^{b}g(x)dx \le \int_{a}^{b}h(x)dx\) も成立します。

\(f(x)\le g(x) \le h(x) \space (a\le x\le b) \Rightarrow \int_{a}^{b}f(x)dx\le \int_{a}^{b}g(x)dx \le \int_{a}^{b}h(x)dx\)

※逆は一般には成り立ちません。数III習いたての頃にありがちなミスなので要注意です。

この知見を使えば、積分できない被関数 \(g(x)\) であっても、積分可能な \(f(x)\) と \(h(x)\) をうまいこと見つけてこれれば、\(g(x)\) の定積分に関する不等式が作れるわけです。以上が基本的なコンセプトになります。

本問の場合は被積分関数が \(g(x)=|\sin{x^2}|\) \((\sqrt{k\pi}\le x \le \sqrt{(k+1)\pi})\) なわけですが、コレをそのまま評価するのは明らかに愚策です。絶対値がついてる、角度が二次式になってる、おまけに積分区間もゴチャついてるという3重苦です。もう少し見やすい形式に変形してから評価したいところです。ここで使う道具は置換積分です。

\(A_k\) の式をじっくり観察すると、①積分区間に√が被さってる②被積分関数中に \(x^2\) の形のみ登場している、ということに気づけると思います。これをヒントに、下記の通り置換してみます。

$$s=x^2 : \begin{cases}\sqrt{k\pi}\le x \le \sqrt{(k+1)\pi} \Rightarrow k\pi \le s \le (k+1)\pi \\ x=\sqrt{s}\Rightarrow dx=\frac{ds}{2\sqrt{s}} \end{cases} $$

$$\Rightarrow A_k=\int_{k\pi}^{(k+1)\pi}\frac{|\sin{s}|}{2\sqrt{s}}ds$$

だいぶ見やすくなりました。これなら評価できそうです。

下拵えが完了したので、いよいよ評価に入ります。評価すべき関数は

$$g(s)=\frac{|\sin{s}|}{2\sqrt{s}}$$

です。三角関数 \(|\sin{s}|\) と分数関数 \(\frac{1}{2\sqrt{s}}\) が掛け合わされているために積分計算できない、という状況なので、これら2つの関数を切り分けて増減を検討したほうがよさそうです。

ということで、まずは \(\frac{1}{2\sqrt{s}}\) の動きについて考察してみます。コイツは区間 \(k\pi \le s \le (k+1)\pi\) で単調減なので、次の不等式が成立します。

$$\frac{1}{2\sqrt{(k+1)\pi}}\le \frac{1}{2\sqrt{s}} \le \frac{1}{2\sqrt{k\pi}}$$

ゴールの不等式になんとなく近い見た目が得られました。いい感じです。あとは、この不等式の辺々に相方の \(|\sin{s}| (\ge 0)\) を掛け算すれば、

$$\frac{|\sin{x}|}{2\sqrt{(k+1)\pi}}\le \frac{|\sin{x}|}{2\sqrt{s}} \le \frac{|\sin{x}|}{2\sqrt{k\pi}}$$

という式が得られます。分数関数 \(\frac{1}{2\sqrt{s}}\) の部分が定数で抑え込めたので、不等式の両端は定積分できそうな雰囲気です。定積分をとると、

$$\int_{k\pi}^{(k+1)\pi}\frac{|\sin{s}|}{2\sqrt{(k+1)\pi}}ds\le \int_{k\pi}^{(k+1)\pi}\frac{|\sin{s}|}{2\sqrt{s}}ds\le \int_{k\pi}^{(k+1)\pi}\frac{|\sin{s}|}{2\sqrt{k\pi}}ds $$

$$\Rightarrow \frac{1}{2\sqrt{(k+1)\pi}}\int_{k\pi}^{(k+1)\pi}|\sin{s}|ds\le A_k\le \frac{1}{2\sqrt{k\pi}}\int_{k\pi}^{(k+1)\pi}|\sin{s}|ds$$

という感じになるので、両端の \(\int_{k\pi}^{(k+1)\pi}|\sin{s}|ds\) を計算すればゴールに辿り着けそうです。 このタイプの定積分では、

$$\begin{cases} k\pi \le s \le (k+1)\pi \Rightarrow |\sin{s}|=(-1)^k\sin{s} \\ \cos{k\pi}=(-1)^k\end{cases}$$

が必須の知識になります。[答案例]では上記の知見を用いて絶対値を直接外す方法を採りましたが、置換積分を利用して絶対値を外すのもアリです。\(t=s-k\pi\) とすれば、

$$\int_{k\pi}^{(k+1)\pi}|\sin{s}|ds=\int_{0}^{\pi}|\sin{(t+k\pi)}|dt$$

$$=\int_{0}^{\pi}|\sin{t}\cos{k\pi}+\cos{t}\sin{k\pi}|dt$$

$$=\int_{0}^{\pi}|(-1)^k||\sin{t}|dt=\int_{0}^{\pi}\sin{t}dt=2$$

こっちの方が符号ミス減りそうな感じですね。いずれの方法でも \(\cos{k\pi}=(-1)^k\) は必須の知識になります。この類の定積分は地味に頻出なので、苦手な方はこの機会に練習するとよきです。

仕上げに \(\int_{k\pi}^{(k+1)\pi}|\sin{s}|ds=2\) を代入すれば目当ての不等式が得られます。

(2) この小問のゴールは「\(\lim_\limits{n \to \infty}B_n\) を求めよ」です。極限の問題は「手計算で不定形解消→無理ならハサミウチ」の順に検討するのが定石ですが、本問は不等式の誘導が与えられているのでハサミウチ決め打ちでよいでしょう。従って、まずは \(B_n\) を(1)が活かせる形式に変形することが第1目標になります。

\(B_n\) の表式は

$$B_n=\frac{1}{\sqrt{n}}\int_{\sqrt{n\pi}}^{\sqrt{2n\pi}}|\sin{x^2}|dx$$

であり、\(A_k\) と同様の置換積分をすると、

$$B_n=\frac{1}{\sqrt{n}}\int_{n\pi}^{2n\pi}\frac{|\sin{s}|}{2\sqrt{s}}ds$$

と変形できます。コレと \(A_k\) の表式を見比べてみると、被積分関数が同じで、積分区間だけ異なっていることに気づきます。\(B_n\) 式を \(A_k\) に近づけたいので、\(B_n\) の積分区間を \(\pi\) ごとに分割してみます。

$$\int_{n\pi}^{2n\pi}=\int_{n\pi}^{(n+1)\pi}+\int_{(n+1)\pi}^{(n+2)\pi}+…+\int_{(2n-1)\pi}^{(2n)\pi}=\sum_{k=n}^{2n-1}\int_{k\pi}^{(k+1)\pi}$$

上記のように分割すれば、

$$B_n=\frac{1}{\sqrt{n}}\sum_{k=n}^{2n-1}A_k$$

というふうに、\(B_n\) を \(A_k\) を用いて表現することができます。第1目標クリアです。

コレを(1)の結果を利用して評価しましょう。(1)の結果を \(k=n,n+1,…,2n-1\) で適用すると、

$$\frac{1}{\sqrt{(n+1)\pi}}\le A_n \le \frac{1}{\sqrt{n\pi}}$$

$$\frac{1}{\sqrt{(n+2)\pi}}\le A_{n+1} \le \frac{1}{\sqrt{(n+1)\pi}}$$

$$…$$

$$\frac{1}{\sqrt{(2n)\pi}}\le A_{2n-1} \le \frac{1}{\sqrt{(2n-1)\pi}}$$

辺々の和を取れば、

$$\sum_{k=n}^{2n-1}\frac{1}{\sqrt{(k+1)\pi}}\le \sum_{k=n}^{2n-1}A_k \le \sum_{k=n}^{2n-1}\frac{1}{\sqrt{k\pi}}$$

仕上げに辺々 \(\sqrt{n}\) で割れば、

$$\frac{1}{\sqrt{n}}\sum_{k=n}^{2n-1}\frac{1}{\sqrt{(k+1)\pi}}\le B_n \le \frac{1}{\sqrt{n}}\sum_{k=n}^{2n-1}\frac{1}{\sqrt{k\pi}}$$

という不等式が得られ、後は両端の極限を調べればクリアできそうです。

この極限計算が最終関門です。このタイプの極限では区分求積法の取り扱いに習熟している必要があります。区分求積法の公式はバリエーション豊富でややこしいですが、まずは下記のものを覚えておきましょう。

$$\lim_\limits{n \to \infty}\frac{1}{n}\sum_{k=0}^{n}f\left(\frac{k}{n}\right)=\int_{0}^{1}f(x)dx$$

最悪、コイツをゴリゴリにブン回せば区分求積法問題の99%くらいは対応可能です。が、せっかくなのでもう少しだけ一般化してみましょう。\(p,q,r,s\) を適当な整数とすると、

$$\lim_\limits{n \to \infty}\frac{1}{n}\sum_{k=\color{red}{p}n+q}^{\color{skyblue}{r}n+s}f\left(\frac{k}{n}\right)=\int_{\color{red}{p}}^{\color{skyblue}{r}}f(x)dx$$

が成立します。個人的にこの形式がいちばん使いやすいと思います。ポイントはΣの下端 \(pn+q\) と上端 \(rn+s\) が \(n\) の1次式となっていることです。このとき、\(q,s\) とかの定数部分は極限に影響せず、\(n\) の係数 \(p,r\) がそれぞれ定積分の下端と上端に対応します。Σの上下が \(n\) の1次式の場合はいつでも使える公式ですが、たまに見かける \(n\) の2次式になってるような激難問題には適用不可なので要注意です。その場合は区分求積法は諦めましょう。

さて、上記の公式を先ほどの不等式に適用してみましょう。まず上側について、区分求積法のフォーマットに寄せて変形すると、

$$\frac{1}{\sqrt{n}}\sum_{k=n}^{2n-1}\frac{1}{\sqrt{k\pi}}=\frac{1}{n}\sum_{k=n}^{2n-1}\frac{\sqrt{n}}{\sqrt{k\pi}}=\frac{1}{n}\sum_{k=n}^{2n-1}\frac{1}{\sqrt{\pi}}\sqrt{\frac{n}{k}}$$

となるので、右端の極限は、

$$\lim_\limits{n \to \infty}\frac{1}{n}\sum_{k=n}^{2n-1}\frac{1}{\sqrt{\pi}}\sqrt{\frac{n}{k}} =\int_{1}^{2}\frac{1}{\sqrt{\pi}}\frac{1}{\sqrt{x}}dx=2\frac{\sqrt{2}-1}{\sqrt{\pi}}$$

と計算できます。コレと下側の極限が一致すればOKです。

下側の計算にはひと工夫必要になります。下側の表式は、

$$\frac{1}{\sqrt{n}}\sum_{k=n}^{2n-1}\frac{1}{\sqrt{(k+1)\pi}}$$

ですが、Σの中身が \(k\) の式ではなく \((k+1)\) の式になっているため、このままでは上記の公式が適用できません。そこで、Σの番号を \(k+1 \to k\) に一個分ズラしてあげます。すると、

$$\frac{1}{\sqrt{n}}\sum_{k=n}^{2n-1}\frac{1}{\sqrt{(k+1)\pi}}=\frac{1}{\sqrt{n}}\sum_{k=n+1}^{2n}\frac{1}{\sqrt{k\pi}}$$

となり、例の公式にブチ込める形式が出来上がります。予定通り上側と同一の極限をもつ形になっているので、あとは \(B_n\) を挟んでフィニッシュです。

このような「Σの番号をズラす」というテクニックは地味に利用頻度が高いので慣れておきましょう。

本問の解説は以上です。お疲れ様でした。

答案例

(1)

$$A_k=\int_{\sqrt{k\pi}}^{\sqrt{(k+1)\pi}}|\sin{x^2}|dx$$

\(x^2=s\) と置換すると、積分区間内の \(x\) に対し、\(x=\sqrt{s}\) であるため、

$$2x=\frac{ds}{dx} \Rightarrow dx=\frac{1}{2\sqrt{s}}ds$$

となる。よって、

$$A_k=\int_{k\pi}^{(k+1)\pi}\frac{|\sin{s}|}{2\sqrt{s}}ds$$

と変形できる。ここで、 \(k\pi \le s\le (k+1)\pi\) のとき、つねに

$$\frac{1}{2\sqrt{(k+1)\pi}}\le \frac{1}{2\sqrt{s}} \le \frac{1}{2\sqrt{k\pi}}$$

$$\Rightarrow \frac{|\sin{s}|}{2\sqrt{(k+1)\pi}}\le \frac{|\sin{s}|}{2\sqrt{s}} \le \frac{|\sin{s}|}{2\sqrt{k\pi}}$$

が成立するため、辺々 \(k\pi \le s\le (k+1)\pi\) で積分すれば、

$$\int_{k\pi}^{(k+1)\pi}\frac{|\sin{s}|}{2\sqrt{(k+1)\pi}}ds\le \int_{k\pi}^{(k+1)\pi}\frac{|\sin{s}|}{2\sqrt{s}}ds\le \int_{k\pi}^{(k+1)\pi}\frac{|\sin{s}|}{2\sqrt{k\pi}}ds $$

$$\Rightarrow \frac{1}{2\sqrt{(k+1)\pi}}\int_{k\pi}^{(k+1)\pi}|\sin{s}|ds\le A_k\le \frac{1}{2\sqrt{k\pi}}\int_{k\pi}^{(k+1)\pi}|\sin{s}|ds\tag{1}$$

が得られる。(1)式両端について、

$$\int_{k\pi}^{(k+1)\pi}|\sin{s}|ds=\int_{k\pi}^{(k+1)\pi}(-1)^{k}\sin{s}ds=(-1)^k[-\cos{s}]_{k\pi}^{(k+1)\pi}$$

$$=(-1)^k(-(-1)^{k+1}+(-1)^k)=2$$

であるため、(1)式より、

$$\frac{1}{\sqrt{(k+1)\pi}}\le A_k \le \frac{1}{\sqrt{k\pi}} \tag{2}$$

を得る。(終)

(2)

$$B_n=\frac{1}{\sqrt{n}}\int_{\sqrt{n\pi}}^{\sqrt{2n\pi}}|\sin{x^2}|dx$$

\(x^2=s\) と置換すると、

$$B_n=\frac{1}{\sqrt{n}}\int_{n\pi}^{2n\pi}\frac{|\sin{s}|}{2\sqrt{s}}ds=\sum_{k=n}^{2n-1}\frac{1}{\sqrt{n}}\int_{k\pi}^{(k+1)\pi}\frac{|\sin{s}|}{2\sqrt{s}}ds=\frac{1}{\sqrt{n}}\sum_{k=n}^{2n-1}A_k$$

と変形できる。ここで、(2)式で \(n\le k \le 2n-1\) を代入して辺々足し合わせると、

$$\sum_{k=n}^{2n-1}\frac{1}{\sqrt{(k+1)\pi}}\le \sum_{k=n}^{2n-1}A_k \le \sum_{k=n}^{2n-1}\frac{1}{\sqrt{k\pi}}$$

$$\Rightarrow \frac{1}{\sqrt{n}}\sum_{k=n+1}^{2n}\frac{1}{\sqrt{k\pi}}\le B_n \le \frac{1}{\sqrt{n}}\sum_{k=n}^{2n-1}\frac{1}{\sqrt{k\pi}}$$

$$\Rightarrow \frac{1}{n}\sum_{k=n+1}^{2n}\frac{1}{\sqrt{\pi}}\sqrt{\frac{n}{k}}\le B_n \le \frac{1}{n}\sum_{k=n}^{2n-1}\frac{1}{\sqrt{\pi}}\sqrt{\frac{n}{k}}$$

が得られ、

$$\lim_\limits{n \to \infty}\frac{1}{n}\sum_{k=n+1}^{2n}\frac{1}{\sqrt{\pi}}\sqrt{\frac{n}{k}}=\lim_\limits{n \to \infty}\frac{1}{n}\sum_{k=n}^{2n-1}\frac{1}{\sqrt{\pi}}\sqrt{\frac{n}{k}}$$

$$=\int_{1}^{2}\frac{1}{\sqrt{\pi}}\frac{dx}{\sqrt{x}}=[\frac{1}{\sqrt{\pi}}2\sqrt{x}]_{1}^{2}=2\frac{\sqrt{2}-1}{\sqrt{\pi}}$$

であることから、はさみうちの原理より、

$$\lim_\limits{n \to \infty}B_n=2\frac{\sqrt{2}-1}{\sqrt{\pi}} \space …(答)$$

となる。

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