こんにちは。今回は一橋大の2024前期大問1についてみていきます。
問題
\(\sum\limits_{k=1}^m k(n-2k)=2024\) を満たす正の整数の組 (\(m,n\)) を求めよ。
考え方
シンプルな整数問題です。
与式左辺のΣはなんだか意味ありげな雰囲気がありますが、ここでは余計なこと考えずに愚直にΣを崩すのが最適解です。Σを崩して与式を整理すると、
$$m(m+1)(3n-4m-2)=2^4\times 3\times 11\times 23$$
という式が現れるので、上式を満足する自然数(m,n)をカウントする流れになります。
カウントするにあたり注目すべきポイントは、左辺の \(m(m+1)\) です。これは連続する2つの自然数の積なので、取りうる値は1*2,2*3,…のように限定されます。1*2からスタートして上式をみたす(m,m+1)を愚直に数え上げていくと、
$$(m,m+1)=(1,2),(2,3),(3,4),(11,12),(22,23),(23,24)$$
の6パターンに絞ることができます。あとはmを代入⇒対応するnの値を求める、を6回やれば本問は討伐できます。結果的にはm=23のパターンのみnが自然数にならず不適で、残りの5パターンが求めるべき(m,n)ということになります。
本問の解説は以上です。本問は一橋大の整数問題の中では易しめな部類で、これといったポイントもないのですが、強いて挙げるなら\(m(m+1)\)に気づけるか否かが分水嶺になるかと思います。これに気づければサクサク解き進めることができます。
ここからは蛇足です。前述の通り本問は\(m(m+1)\)に気づければ秒殺できますが、仮に気づけなかったとしてもゴリ押しが可能です。右辺の約数の個数は \((4+1)(1+1)(1+1)(1+1)=40\)個であることがわかるので、m=1~12144 まで40通りを虱潰しに調べ上げれば本問は完答できます。40通りならギリ腕力でゴリ押せる水準かと思います。腕っぷしで組み伏せるのもアリです。
アホみたいな話に聞こえるかも知れませんが、しかし意外と馬鹿にできない話でもあります。腹括って愚直に手を動かせば1パターンあたり1分もあれば無理なく熟せる作業内容であり、パターン数はたかだか40通りしかないので、諸々含めても本問は40~50分程度あれば十分に完答可能な大問です。一橋大の前期数学が5問/120分の設定であることを踏まえると、「試験時間の3~4割を対価に得点率20%を確保できる」選択肢ということになります。わりと現実的な択になるのではないでしょうか。
この方法の最大のメリットは「いざとなったらゴリ押せる」という確証が得られることです。数学に限らず全ての科目に言えることですが、試験本番における最大のリスクは「焦り」です。国立二次試験本番の緊張感は想像を絶するもので、押しつぶされそうなプレッシャーの中で普段通りのパフォーマンスを発揮することは困難極まります。普段なら思いつく解法が浮かんでこなかったり、普段なら絶対やらないケアレスミスをやらかしたり、試験中に何の前触れもなく頭が真っ白になったりします。緊張で手が震えてまともに文字が書けなくなります。ガチです。緊張のあまり手が震えてシャーペンの先っぽで答案用紙を破いてしまう可能性すらあります(実体験)。答案用紙の交換に来た試験官の憐憫に満ちた眼差しは一生忘れません。
といった具合で、試験本番で普段通りのパフォーマンスを発揮することはほぼ無理です。誰しもが大なり小なりポンコツになります。試験会場では自分以外の見知らぬ受験生がなんとなく自分より賢そうに見えてくる、というのは受験あるあるですが、アレは自分が普段よりポンコツになってるために相対的に周りがハイスペックに見えてるだけです。錯覚です。自信を持ちましょう。そして賢そうな見た目の周りの連中も大概ポンコツです。隣の席で頬杖ついて参考書眺めてる見るからにインテリっぽい学ラン短髪黒縁メガネも内心では緊張で奥歯ガタガタ鳴らしてるものです。半ば錯乱状態です。試験前40分間の休憩時間にお弁当食べようとして箸と間違えて鉛筆2本で春巻を口に運んだりするものです(実話)。全力で見て見ぬふりしました。流石に緊張しすぎやろ。
そんな極限状況において、「時間はかかるけど確実に解ける」手札の恩恵は計り知れません。爆アドです。安心感がダンチです。何物にも代えがたい精神安定剤になります。このプランBの存在により、初見の問題に対しても落ち着いて取り組めるようになります。「いざとなったら腕力でゴリ押せる」という安心感を後ろ盾に、少し背伸びした解法も無理なく選択できる余裕が得られます。
実際にその解法を採るか否かはこの際重要ではありません。重要なのは、「ゴリ押せる」という確証があること、その手札が懐に在るということです。いわば筋肉みたいなものです。筋トレは正義です。屈強な肉体は私たちに勇気をくれます。屈強な精神を涵養すべく肉体を鍛えるのであって、鍛えた腕っぷしを実際に振るうか否かはさしたる問題ではないわけです。
数学も同じです。泥臭くて非効率な腕っぷし解法を実際に採るか否かは重要ではありません。そのようなプランBが手元にあること、いざとなったら泥臭く着実に点をもぎ取れる腕力が私たちに勇気を与えてくれるのです。
数学は筋肉です。パワー。
答案例
$$\sum\limits_{k=1}^m k(n-2k)=2024 \tag{1}$$
$$[(1)式左辺]=\sum\limits_{k=1}^m (nk-2k^2)$$
$$=n\frac{m(m+1)}{2}-2\frac{m(m+1)(2m+1)}{6}$$
$$=m(m+1)(\frac{n}{2}-\frac{2m+1}{3})$$
$$=\frac{m(m+1)}{6}(3n-4m-2)$$
$$[(1)式右辺]=2^3\times 11\times23$$
ゆえ、
$$(1) \Leftrightarrow \frac{m(m+1)}{6}(3n-4m-2)=2^3\times11\times23$$
$$\Leftrightarrow m(m+1)(3n-4m-2)=2^4\times 3\times 11\times 23 \tag{2}$$
(2)式左辺について、m(m+1)が連続2整数の積であることから、(m,m+1)で可能な組み合わせは
$$(m,m+1)=(1,2),(2,3),(3,4),(11,12),(22,23),(23,24)$$
の6通りに絞られる。
(I)m=1のとき、\(3n-4\times 1-2=2^3\times 3\times 11\times 23\) より、\(n=2026\)
(II)m=2のとき、\(3n-4\times 2-2=2^3\times 11\times 23\) より、\(n=687\)
(III)m=3のとき、\(3n-4\times 3-2=2^2\times 11\times 23\) より、\(n=342\)
(IV)m=11のとき、\(3n-4\times 11-2=2^2\times 23\) より、\(n=46\)
(V)m=22のとき、\(3n-4\times 22-2=2^3\times 3\) より、\(n=38\)
(VI)m=23のとき、\(3n-4\times 23-2=2\times 11\) より、\(n=\frac{116}{3}\)
以上より、求める組は
$$(m,n)=(1,2026),(2,687),(3,342),(11,46),(22,38)$$
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